カルタヘナ法と学校教育

先月（2023年3月10日）に報道されたニュースですが、遺伝子組換えメダカを飼育・販売したなどとして、全国で初めて「カルタヘナ法」違反での逮捕者が出ました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/76f0d7cc460d310101a7efcf7fa1e69e71f83f79

ある大学の研究室で、遺伝子組み換えによって作成された「光るメダカ」が外部に流出し、それを、カルタヘナ法に定められている承認の手続きを経ずに、国内で飼育・販売した、という内容です。国内で飼育・販売をした、60〜72歳の男性５人が逮捕されたそうです。起訴されれば、１年以下の懲役、又は100万円以下の罰金という処分が言い渡される可能性大です。

大学の基礎生物学研究所で、研究目的で、正式な手続きを踏んで作成された「光るメダカ」は、正式な手続きを踏んで、同大学の淡水魚飼育室が譲り受け、その淡水魚飼育室に出入りすることが可能だった同大学の生命理工学部の大学院の学生、男女４人が、無断で「光るメダカ」の卵を持ち出したのが、発端だったようです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2d9042fcfbbed88f7fd18fe394f8c257e285c0e0?page=2

その元学生４人は、今回の事件で、カルタヘナ法違反容疑で書類送検され、文部科学省は、同大学に対し、再発防止を徹底するよう、文書で厳重注意した、とのこと。

このニュース解説を、私はテレビで見ましたが、強く印象に残っているのは、その番組のレギュラーメンバーは誰も「カルタヘナ法」を知らなかったことです。「遺伝子組み換え」には敏感に反応し、また、生態系への影響の問題を指摘するのに、なぜ「カルタヘナ法」を知らないのでしょうか。なんか変ですよね。

そういえば、最近の高校では、大腸菌を使った遺伝子組み換え実験をやってます。高校の実験では、ちゃんと、カルタヘナ法に基づいた拡散防止処置をとって、実験をやっているのでしょうか？　そもそも、高校の生物の授業では、「カルタヘナ法」について、教育を実施しているのでしょうか？

まず、高校の「生物」の教科書を調べてみました。「生物基礎」には、遺伝子組み換えや、バイオテクノロジーの説明すら書いてありません。理系の「生物」の教科書には、「バイオテクノロジーと人間生活」という章に「カルタヘナ議定書締約国会議」（2010年名古屋市）の写真は載っていましたが、教科書本文には、「カルタヘナ法」という単語は載っていませんでした。「カルタヘナ法」は2003年に成立しているのに、いまだに「カルタヘナ法」が教科書の本文に書かれていないって、もう成立から20年も経っていますよ。なんか変ですよね。

高校の教科書がこの様子だと、高校では「カルタヘナ法」に関する授業をやっていないのではないか、と、思います。私の手元にある教科書だけ書いていないのかもしれないので、試しにネットで、「高校生物カルタヘナ」で検索したのですが、【高校生物】の内容としては、一件も引っかかりませんでした。「高校生物遺伝子組み換え」で検索すると、「遺伝子組み換え」は【高校生物】の内容として何件もたくさん検索されるのに、何か、バランスが悪くないでしょうか？

なお、高校の生物の授業で行われる遺伝子組み換え実験に関しては、指定のキットを使い、学校の先生が、カルタヘナ法に基づき、拡散防止用のチェックリストを使ってチェックし、拡散防止処置を行う義務があります。遺伝子組み換え実験をするにあたって、教科書に、カルタヘナ法に関してちゃんと書かれていないのは、バランスが悪いのではないでしょうか。

理系の高校生物の授業がこの状態ですから、文系の高校生なら、なおさら、知らない方が普通、といえます。カルタヘナ法は、実験だけに関する法律ではなく、施設外への持ち出しや、施設外での飼育、海外からの輸入、流通、販売にも及んでいます。理系の学生だけが知っていれば良い、というものではないですよねぇ。

＜補足＞高校で行われる、大腸菌を使った遺伝子組み換えの実験は、カルタヘナ法での、下図の右上の部分（「高校バイオ実験」と記入した箇所（私が記入しました））に該当します。遺伝子組み換えを行なった大腸菌が空気中や実験室外に拡散しないように、下記のチェックリストに従って実験を行う義務があります。といった様に、「カルタヘナ法」を遵守して実験を行なう義務がある、ということを、先生は生徒に言えばいいのです。高校の先生は、是非そういう風に（例え教科書に載っていなくて、大学受験にも出ないけれど）授業で「カルタヘナ法」のことを、しっかりと、生徒に言ってほしいと思います。