脂質二重膜で包まれた、細胞サイズ(直径:数10μm)の中は、別世界だそうです。そんな細胞の中は、タンパク質やRNAといった分子量が大きい物質(高分子物質)が均等に溶けている水溶液、というイメージがありました。そしてタンパク質は、折りたたまれた立体的な構造をしており、その構造がさまざまな機能的な働きをする、というイメージがありました。それが、先日の、「相分離がもたらす。。。」のセミナーで、一挙にそのイメージが崩れ去りました。
(1)細胞内の全タンパク質の約40%は、構造を持たない、天然変性タンパク質である。
(2)細胞内の多くのRNAは、天然変性タンパク質と結合して、複合体を形成している
(3)似た複合体同士が互いに近づきあい、グループ(液相)を形成している場合が多い。
(4)そのようなグループが細胞には複数存在し、「… 顆粒」とか「… 体」とか呼ばれている。
タンパク質といえば、自然に立体構造を取る性質があり、うまく立体構造を形成できなければシャペロンが手伝ってくれる。なかなか立体構造を取れないまま取り残されれば、ユビキチン修飾され、プロテアソームで分解される、そのように教科書で勉強したように思います。うまく立体構造になれなかったタンパク質、あるいは立体構造が崩れたタンパク質は「変性タンパク質」と呼ばれ、分解されなければ、しだいに繊維状に凝集して病気になる、そのように教わったように思います。だから、「変性タンパク質」は忌み嫌われ、悪者扱いでした。
それがですよ、細胞内の全たんぱく質の約40%は天然変性タンパクであると。ナヌーって感じでした。しかもこのことを聞いたのは、「相分離がもたらす。。。」のセミナーの冒頭でした。その後の私を、連想してみてください。
そして次に、驚いたのは、そのような天然変性タンパク質は、RNAと結合して、複合体を作っている、と。mRNAにタンパク質がくっついて複合体になっている絵なんて、教科書のどこを見ても、そんな絵は見たことないです。mRNAにタンパク質が絡み付いていては、どうやってリボソームで翻訳されるのでしょう。邪魔になって仕方がないのではないでしょうか。
そして次に、細胞質の中は、高分子で混み合っている、と。細胞質の中には、300mg/mL という濃度だそうで。これには、たまげました。試験管で酵素の反応をさせる場合でも、1mg/mLでも十分に実験できるのに、300mg/mL とは、おったまげました。
最後に、キワメツケは、そのような高分子の高濃度液は、試験管では均等な濃度の溶液だけど、脂質二重膜で囲われた、細胞サイズ(直径:数10μm)の中だと、膜からの距離が近い影響があって、似た種類の高分子同士が集まってグループを形成しやすくなる、と。これがつまり、液液相分離(liquid-liquid phase separation:LLPS)と言われている現象だそうです。
今回のセミナーは、私にとって、青天の霹靂、といった感じのセミナーでした。
参考文献
(1)Wikipedia「天然変性パンパク質」
https://ja.wikipedia.org/wiki/天然変性タンパク質
(2)広島大学 「【研究成果】水溶液が分離するか否かを、細胞サイズの器が制御することを発見」
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/72640
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