新型コロナ治療用の細胞製剤

雑感、その他

今回は、新型コロナに感染した後の治療薬として、キラーT細胞を用いた細胞製剤に関するお話をしたいと思います。2024年7月30日に、京都大学の河本教授から、以下の発表がありました。

『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療用の多能性幹細胞由来キラーT細胞製剤の作製に世界で初めて成功し、本学が主導する形で特許出願を行いました。この成功により、臨床試験に向けた開発研究が本格化します。』(資料1)

このキラーT細胞製剤は、以下のStepで、作成されます。

(Step1)ES細胞に対して、拒絶されにくくするために、HLA遺伝子をノックアウト
(Step2)そのES細胞に、NY-ESO1抗原特異的TCRを遺伝子導入
(Step3)その細胞を、キラーT細胞に分化誘導
(Step4)そのキラーT細胞に、新型コロナウイルス感染を感知できるTCR遺伝子を導入
(Step5)そのキラーT細胞を、細胞製剤として冷凍保存する。

近い将来、新型コロナに感染した重症患者、重症リスク患者に対して、この細胞製剤を解凍して点滴投与できるようにする予定。

<詳細>
私は、(資料2)を読んで、以下のように理解しました(あくまで私の理解であり、間違いがあるかもしれません)。

(1)この細胞製剤を用いる医療は、「再生医療」に分類される医療であり、早ければ5年後の実用化を目指して、臨床試験に向けた準備を開始した。
(2)このキラーT細胞は、HLAの発現がないので、HLAの違いに由来する免疫拒絶反応は起きないが、ナチュラルキラー細胞に攻撃される。攻撃されて死滅するまでの間(数週間)に、新型コロナに感染した細胞を攻撃、破壊し、それによってウイルスの増殖を食い止めることで、新型コロナ感染患者の治療に役立たせることができる。
(3)(Step2)で使用するNY-ESO1抗原特異的TCRは、がん細胞を感知するTCR。今までに、がんの免疫細胞療法の研究開発で使用してきたTCRで、iPS細胞やES細胞をキラーT細胞に分化誘導するための方法として実績があった。新型コロナ感染細胞の感知に役立つわけではない。
(4)がん細胞を感知するTCRを使うのではなく、ES細胞に、直接、新型コロナウイルス感染を感知できるTCR遺伝子を導入して、キラーT細胞に分化誘導するのが理想であり、今後の研究課題である。臨床試験の際には、新型コロナ特異的 TCR遺伝子を直接 ES細胞に導入し、その ES細胞から作製したT細胞を用いる予定。
(5)(Step4)で使用するTCR遺伝子は、新型コロナワクチン接種歴のある健常な人の血液から、スパイクタンパク特異的なTCRを発現するT細胞を抽出し、クローニングし、遺伝子解析した。
(6)キラーT細胞のTCRは、感染細胞のHLAと、そのHLA上に提示される、新型コロナ由来のペプチド断片との複合体(HLA-peptide Complex)を認識する。よって、新型コロナ特異的TCRは、特定の HLAを持っている人にしか使えないという制約(拘束性)がある。今回の新型コロナ特異的TCRは、日本人に多いタイプの HLA に合うTCRを2種類選んだ。
(7)今回の新型コロナ特異的TCRは、HLA-A2402拘束性を持つタイプのものと、HLA-A0201 拘束性を持つタイプのものを選んだ。HLA-A2402は日本人の約60%、HLA-A0201 は日本人の約20%、合計、日本人の約70%から80%をカバーすることができる。今後、他のタイプにも対応する予定。
(8)今回、iPS細胞ではなく、ES細胞を使用した理由は、特許の関係である。今回は、特許料の支払いが少なくて済むES細胞の方を選択した。

(追記1)iPS細胞は、患者自身からiPS細胞を作成できるメリット、疾患特異的iPS細胞を用いた病態の再現と、それに効果的な治療方法の探索、そういったことができるメリットがあり、今後、ES細胞とiPS細胞とは、再生医療の発展の中で、(車の)両輪として使われるようになることが期待される。

(追記2)今回開発されたこの方法は、新型コロナウイルスに特化した方法ではなく、今後出てくるであろう新たなウイルスによる感染症にも応用できる、とのこと。

(追記3)このキラーT細胞製剤は、新型コロナウイルスが変異しても効くそうです。

(資料1)京都大学 研究成果
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-07-30-0

(資料2)詳しい研究内容について
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2024-07/web240729_Kawamoto_LiMe_-6db488164f0e6257b9c606955669d522.pdf

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