炎症の発生から収束まで

免疫力とは

生物学の教科書には、細菌やウイルスといった病原体の侵入に際し、さまざまな免疫の仕組みにより生じる免疫応答について書かれています。侵入した病原体を貪食したマクロファージが炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-αなど)を産生したり、マスト細胞がヒスタミンなどをを産生することによって、いわゆる「炎症」が生じ、免疫細胞が病原体を攻撃するのですが、不思議なことに、高校や大学基礎までの生物学の教科書には、炎症の発生の過程についての説明は書いていても、炎症の収束の過程については、何も書かれていません。
炎症の発生から収束までが、病原体の侵入に関する一連の「免疫」の働きだと思うのですが、病原体への攻撃の過程しか書かないのは、偏っているように思います。

私は、免疫は「アクセル」と「ブレーキ」のバランスだと思っています。炎症の過程では、アクセルとブレーキの両方を同時に踏んでいる状態が生じているように思います。炎症の発生期では、全体としてアクセルの方が数的に勝っていて、炎症の収束期は、ブレーキの方が数的に勝っている、そういう状態の遷移こそが、免疫の働きだと思います。この状態遷移がうまくいかない場合、例えば、アクセルが数的に勝っている状態が続きすぎると、炎症が進行しすぎて、肺炎や、腹膜炎、心筋炎といった炎症が深刻になりします。炎症の発生期に、アクセルがブレーキよりも数的に劣ってしまうと、病原体を十分に駆逐することができず、病原体による悪影響が深刻になります。

病原体の侵入時には、ブレーキよりアクセルの方が数的に適度に勝り、適度な炎症が生じ、病原体が死滅した時には、アクセルよりもブレーキの方が数的に適度に勝って炎症が収束する、そういったスムーズな状態の遷移を実現することができることこそが、健全な「免疫」の働きだと思います。そのような、健全な「免疫」の働きによる状態の遷移について説明しようと思えば、アクセルだけでなく、ブレーキについても書かなければならないのではないでしょうか。

「ブレーキ」の代表的な例としては、
 (1)炎症組織でのPD-L1の発現の上昇
 (2)IL-10、TGF-βなどの抗炎症性サイトカインの産生
主に、この2つが重要かと思います。

PD-L1は正常末梢組織で広く恒常的な発現がみられ,様々な臓器の抗原提示細胞や血管内皮細胞に発現し,炎症により発現が上昇します。炎症組織で発現が上昇したPD-L1は、活性化した免疫細胞の細胞膜に発現するPD-1に働きかけ、免疫細胞を鎮静化します(参考1)。

IL-10は、さまざまな免疫細胞が産生し、炎症性サイトカインの産生を抑制します。また、IL-10は、ヘルパーT細胞から制御性T細胞(Treg)への分化を促進し、過剰な免疫反応を抑制します(参考2)。

TGF-βは、広範囲な組織や器官の細胞から産生されています。TGF-βは、炎症性サイトカインであるIL-6が存在していない時、ヘルパーT細胞をTreg細胞に誘導する働きをします。Treg細胞は、IL-10やTGF-βを産生します(参考3)。

一方、TGF-βは、IL-6が存在している時は、ヘルパーT細胞を、炎症性サイトカインを産生するTh17に誘導しますので、IL-6の有り無しが、TGF-βを、炎症性サイトカインにするか、抗炎症性サイトカインにするか、スイッチのような働きをしています。

(参考1)PD-L1およびPD-L2の生理的発現分布の相違と機能は?  https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15307
(参考2)研究用語辞典 IL-10(インターロイキン10)
https://research.kobayashi.co.jp/glossary/il-10.html
(参考3)MBL ライフサイエンス
https://ruo.mbl.co.jp/bio/product/allergy-Immunology/pickup/th17.html
(参考4)IL-6の発見
https://chugai-pharm.jp/contents/za/046

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