(1)DNAとは
(2)染色体とは
(3)遺伝情報とは <==
(4)遺伝子とは
(5)細胞が作る「タンパク質」とは
今回は、「遺伝情報とは」というテーマで、私なりの説明を試みたいと思います。
「遺伝情報」は、概念的な言葉です。親から子に、あるいは子孫に伝えるべき、ヒトがヒトとしての生体を形成・運営していくために必要なすべての情報、という意味です。
歴史的には、遺伝情報の意味として、親から子に伝わる形質(血液型や、お酒に強い弱い、肌や髪の毛や目の色、など)に関する情報だとしていた時代がありました。しかし、私は、遺伝情報とは、親から子に伝えていく、ヒトという生き物として必要なすべての情報だ、という考えを持っています。
現在、遺伝情報の大部分は、配偶子(卵子や精子)の染色体DNAが担っていると考えられています(染色体DNA以外でも、遺伝情報が伝えられているという研究も報告されています。<補足>参照)。
人によっては、染色体DNAの各所にあるタンパク質の設計図が、遺伝情報を担っているとおっしゃっている場合もありますが、私は、染色体DNAの各所にあるタンパク質の設計図が担っているのは、遺伝情報の一部にすぎない、という考え方をしています。
さて、遺伝情報は、配偶子(卵子や精子)の染色体DNAの、どの部分が、どのような遺伝情報を伝えているのでしょうか。今までに少しずつ解明されてきていますが、まだ完全には解明しきれていません。かなり解明されてきたのは、ヒトが生体を形成したり、生体の働きを実現するために必要なタンパク質の設計図に関する情報です。染色体DNAの各所に、そのようなタンパク質の設計図が書かれていることがわかってきました(次回のブログ「遺伝子とは」を参照)。
しかし、タンパク質の設計図があるだけでは、生体を運営することはできません。その設計図を、どういうタイミングで読み、どの程度のタンパク質を作るのか。作り過ぎればどのようにして調整するのか。こういうことに関しては、染色体DNAの、タンパク質の設計図以外の部分に書かれていることが、わかってきています。
しかし、作ったタンパク質をどういう方法で必要な場所に運ぶのか、受精卵から赤ちゃんに成長し、親から食事を与えられれば、どの様にして食物を消化するのか、外からウイルスが侵入してきた場合、どの様にして対処するのか、そういったことも、染色体DNAにすべて書き込まれているのかどうか、まだまだ解明できていないことは多いと思います。
NHKスペシャル シリーズ人体II「遺伝子」という番組で、興味深いことが放送されていました。それは、染色体DNAの、タンパク質の設計図以外の部分から、そのヒトの顔かたちを再現することができる、というお話です。他にも、染色体DNAの、タンパク質の設計図以外の部分には、カフェインの分解能力に関係する部分など、さまざまな働きが発見されているそうです。私は、そういった、タンパク質の設計図以外の部分も含めて「遺伝情報」だと考えています。
参考:https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_967.html
さて、そのような「遺伝情報」ですが、配偶子(卵子や精子)の染色体DNAが、受精によって結合し、その後、受精卵の細胞分裂によって、染色体DNAは各細胞にコピーされます。その後、細胞分裂と分化を繰り返し、人体を形成していきます。ですので、人体を形成するすべての細胞は、すべて同じ染色体DNAを持っていることになります(注1)。しかし、成長の後、病気になって、骨髄移植とか、臓器移植を受けたとしましょう。その場合、その人の体には、他のヒトの染色体DNAを持った細胞が混ざることになります。骨髄移植によって血液型や、血液(白血球)から判別される性別が変わったりすることもありますが、他のヒトの細胞が混ざっても問題ない様です(免疫拒絶反応を抑える必要がありますが)。不思議ですね。
(注1)免疫細胞の一種であるT細胞やB細胞は、その染色体DNAのうち、人体に入ってきた異物について検知や攻撃する機能を持つタンパク質の設計図に関して、多様な異物を検知や攻撃できるよう、多様な設計図に再構成されています。
親から子に伝えた遺伝情報の大部分は染色体DNAに書かれてあるのですが、だからといって、染色体DNAによって、子供の人生の運命が決まってしまうわけではありません。最近は、遺伝子検査で、自分の将来がわかってしまうというとか、そういう風潮がある様に思います。しかし、親からもらった染色体DNAの情報を、どの様に使うのかは、子供の生活環境や学校教育などで変わることを、忘れてはいけないと思います。それは、親からもらった染色体DNAの塩基配列をハードウエアと考えれば、それをどう使うのかは、広い意味でのソフトウエアだと言えるのではないでしょうか。
参考:https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_973.html
親からもらった染色体DNAを自己だとすれば、自己の周りのヒト、つまり社会によって、その自己の染色体DNAがどの様に活かされるのかが大切です。それは地域社会を対象とした社会科学(地域社会学)の分野だと思います。科学は、自然科学だけではなく、そういった社会科学も大切な科学だと思います。
余談ですが(遺伝情報とは関係ありませんが)、最近、私が考えているのは、いろいろな国に生まれた人の間で、腸内細菌叢(さいきんそう)(腸内フローラ)の違いはどうやって生じるのだろう、ということです。腸内細菌は、生まれた後に腸に宿しますので、染色体DNAに書かれてはいません。私は1つ仮説を持っています。生まれたばかりの赤ちゃんの周囲の土です。土の中にはさまざまな細菌が住んでいます。親が靴の底に土を付けて、玄関口で靴を脱ぎますが、その土の中に住んでいるさまざまな細菌が、赤ちゃんの腸内細菌叢に影響しているのではないか、という仮説です。海のそばで生まれた赤ちゃんは、海水の中に住んでいる細菌も、影響するかもしれません。そういった大自然が、腸内細菌叢を育んでいるのかもしれません。これは、あくまで私の仮説ですけどね。
参考:https://www.asahi.com/relife/article/14339144
<補足>
配偶子の染色体DNAの塩基配列だけが「遺伝情報」を伝えているわけではなく、例えば、親が受けたストレスが、染色体DNAを巻き取っているヒストンの巻き取り状態を変化させ、それが子孫に遺伝することが、わかってきました。これは、メンデルの法則に従わない遺伝だとされ、注目されています。
2011年 理化学研究所
https://resemom.jp/article/2011/06/24/3027.html
また、染色体DNA以外の遺伝として、細胞質遺伝も知られています。これは母性遺伝で、ヒトの場合、主にミトコンドリアDNAによる遺伝です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/細胞質遺伝
今回の私の説明は以上ですが、間違っていたら、ごめんなさいね。
コメント