ワクチンについて(その4)

千里ライフサイエンスセンター

「理想的なワクチン」について、北海道大学の喜田宏先生のご講演を拝聴しました(参考1)。先生が推奨しておられるのは、「不活化全粒子ワクチン」です。「全粒子ワクチン」と言ったり「完全粒子ワクチン」と言ったりします。このタイプのワクチンは、従来のインフルエンザワクチンなどにも採用されているタイプのものです。これは、実際のウイルスを使って、ウイルスの形状をそのまま残し、加熱やホルマリンなどを使ってウイルスの能力を無くしたものです。ウイルスに感染した場合と同様の免疫応答、免疫記憶が期待できます。

このタイプのワクチンの製造では、鶏卵やVero細胞(参考2)などを使ってウイルスを増殖する必要があり、生産に要する時間が長いという短所があります。ただし、従来から用いられている手法であり、安全面における信頼度が高い、という長所があります。

前回ご紹介した「組み換えタンパクワクチン」はウイルスの粒子形状を持っていないので、そのまま投与した場合、十分な免疫応答が生じません。そのため、免疫応答を増強するためのアジュバントを添加して投与する必要があります。しかし、この「全粒子ワクチン」の場合、ウイルスの粒子形状を保っているので強い免疫応答を得ることができます。免疫応答を増強する必要があるとしても、アジュバントは少ない量で済ませられることが期待できます。そのため、組み換えタンパクワクチンと比べた場合、アジュバントの危険性への心配が少ないという長所がある、と言えます。

新型コロナウイルスに対する「不活化全粒子ワクチン」としては、明治グループのKMバイオロジクス社の「KD-414」が実用化に近いです。現在フェーズ3の試験を行なっているようです。また、小児用のワクチンに力を入れており、安全面が重要な小児用として、意味が大きいと思います(参考3)。

(参考1) 「不活化ウイルス完全粒子混合ワクチンの研究開発」https://www.amed.go.jp/content/000125506.pdf
(参考2)「Vero細胞」https://ja.wikipedia.org/wiki/ベロ細胞
(参考3)「新型コロナウイルス感染症(COVID-19」に対するワクチンKD-414 …」
https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2023/detail/pdf/231016_01.pdf

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