ワクチンについて(その5)

雑感、その他

今回は、2024年9月13日に国内製造販売承認された、オミクロンJN.1対応のレプリコンワクチン「コスタイベ筋注用」についてご紹介したいと思います。
このレプリコンワクチンは、米国のArcturus Therapeutics Inc.が開発したもので、Meiji seika ファルマ株式会社が、日本での製造販売の承認を取得し、日本での供給・販売を担います。

従来のファイザーやモデルナのmRNAワクチンとの違いは、脂質ナノ粒子(LNP)に、mRNAの代わりに、自己増殖型mRNA(self-amplifying messenger RNA)(sa-mRNA、saRNA)(説明1)を封入していること。これにより、従来のmRANワクチンよりも、大幅に少ない量(マウスで実験した場合、64分の1)(資料5)で有効なワクチンとなります。そのため、パンデミック時に、大量生産しやすいことが期待されます。Nextパンデミック時の緊急事態下でのワクチンとして期待できると思います。

なお、sa-mRNAによって合成されるスパイクタンパクは、SARS-CoV-2 スパイクタンパク完全長である(資料4)(スパイクタンパクのACE2受容体接合部(RBD)ではない)ことは、従来のmRANワクチンと同様です。これまでに承認された従来のmRNAワクチンと同様の仕組み(説明2)によって、免疫応答が生じます。ですので、生じる副反応(副作用)については、従来のmRNAワクチンと同様だと思われます。

(説明1)このワクチンで使用される自己増殖型mRNA(sa-mRNA、saRNA)は、新型コロナウイルスのスパイクタンパクの設計図部分(mRNA)に、RNA複製酵素(レプリカーぜ)の設計図をくっつけた形をしている。これにより、ワクチンLNPがワクチン接種者の体細胞(筋肉細胞、血管内皮細胞、リンパ節など)に侵入し、その細胞質内にあるリボソームの働きで、スパイクタンパクとレプリカーゼが合成される。sa-mRNAは、mRNAと同様、1日から数日で細胞質内にあるmRNA分解酵素やオートファジーの機構によって分解されるが、分解される前にレプリカーゼによってsa-mRNAの複製が作られるので、細胞質内のsa-mRNAの数は、mRNAの場合よりも、減少速度が遅い(※)。そのため、sa-mRNAは、mRNA単体よりも少量で、かつ長期間、十分な量のスパイクタンパクを合成することができると言える。

(※)マウスでの実験では、従来のmRNAの場合、接種後、筋肉中濃度は、約15日目でほぼ0になったが、今回のsa-mRNAの場合、約30日目で、ほぼ0になった(資料4)。

(説明2)細胞質内で合成されたスパイクタンパクは、細胞膜上に突出する。その異常を検知したマクロファージや樹状細胞が、その体細胞を貪食する(そのために筋肉痛や炎症や発熱が生じる)。貪食したマクロファージや樹状細胞は、細胞膜にスパイクタンパク(の欠けら)を突出させ、ヘルパーT細胞に抗原提示し、免疫応答が発動し、スパイクタンパクに特化したキラーT細胞や、B細胞が活性化する。キラーT細胞は、スパイクタンパクを発現している体細胞を選択的に攻撃する。活性化したB細胞は抗体産生細胞となり、そこから作られた抗体は、スパイクタンパクを発現している体細胞に選択的に取り付き、マクロファージや樹状細胞を呼び寄せ、貪食作用を促進する。また、抗体は、血液中に漏れ出たスパイクタンパクにも取り付き、血液中の好中球や補体を活性化させ、好中球によるスパイクタンパクの貪食や、補体によるスパイクタンパクの分解がなされる。

(資料1)国内製造販売承認のお知らせ
https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2023/detail/pdf/231128_02.pdf

(資料2)次世代mRNAワクチン(レプリコン) 「コスタイベ筋注用」
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001266060.pdf

(資料3)オミクロン株JN.1系統対応「コスタイベ筋注用」の日本における一部変更承認取得
https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2024/detail/pdf/240913_02.pdf

(資料4)Meiji seika ファルマ 医薬品インタビューフォーム
https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/medical/product_med/item/000536/upload/revision/interview/000536_ITV.pdf

(資料5)日本で承認された新世代mRNAワクチン、従来とどう違うのか?
https://www.technologyreview.jp/s/328776/the-next-generation-of-mrna-vaccines-is-on-its-way

コメント

タイトルとURLをコピーしました