細胞内抗体医薬(続編)

雑感、その他

今回は、前回のテーマの続編です。細胞内抗体医薬に関するアプローチには、以下のものがあります(再掲)。

  1. 細胞膜透過ペプチド(CPP)を使って、抗体を、細胞内に届ける
  2. 高分子ミセルを使って、抗体医薬を細胞内に届ける
  3. CPPと高分子ミセルの併用
  4. CPPによる膜透過法の改良
  5. 細胞内で抗体医薬を作る

さて、今回は、4.と5.です。
4.は、CPP(細胞膜透過ペプチド)を使った場合の課題を解決する方法です(参考資料(1)、(2))。CPPを使った場合、CPPと結合した、抗体医薬などの薬剤は、エンドサイトーシス(マイクロピノサイトーシス)によって細胞内に取り込まれやすくはなるのですが、その後、薬剤は、エンドソームの壁を破って細胞質内に進出することは困難だということは、以前私のブログでも取り上げていた通りです。

ここで少し脱線しますが、ライフサイエンスでは、新薬のような、希望の星(スター)が現れた後、しばらくして、その改良方法が発表されるときに、希望の星(スター)の問題点や課題が暴露されることが実に多いです。だから、新しい技術が発表される時も、『何々ができる可能性がある』といったように、専門家は、控えめな表現がよく使われます。可能性がある、というような表現だったら、専門家でなくても誰でも言えますよね。マスコミによる報道では、白衣を着せた専門家を登場させ、『何々ができる可能性があります』としゃべらせ、一般の人に大いに期待を持たせる。そしてしばらくして、希望の星(スター)の問題点をクローズアップする。いわゆる、上げて下げる報道パターンです。タブロイド的、興味本位の報道。センセーショナルなことを言って、視聴率は上がるかもしれませんが、それでは、一般の人は、ライフサイエンスに対して、信用できなくなりますよね。マスコミのこういった報道体質の罪は重いと思います。

マスコミ批判はこのくらいにして、4.は、抗体医薬に、CPPだけではなく、膜融合ペプチド(Fusogenic Peptides:FP)も結合させることにより、エンドソームの壁が不安定になり、エンドソームの壁が崩壊することによって、抗体医薬がエンドソームから離脱し、細胞質に進出できるそうです。

(図1)は、参考資料(1)からの引用です。

5.は、これまでとは全く異なる方法です。抗体医薬を細胞質内で作る、という画期的な方法です(参考資料(3)、(4))。「抗体」はタンパク質です。抗体タンパクのコードを持たせたDNAを作成し、それを、アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて、細胞内に送り込みます。細胞内では、そのDNAから抗体が作成され、その抗体は、細胞内に蓄積されている異常タンパクに取り憑いて毒性を排除し、病気を治します。すごい時代が到来しそうですね。まだ「研究」段階ですが。。。

<参考文献>
<4>CPPによる膜透過法の改良
(1)タンパク質の細胞質送達を促進するヒト由来ペプチドを発見 慶應技術大学 2017年
 https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2017/4/6/170406-1.pdf
(2)膜透過促進ペプチドによる バイオ医薬品の細胞内デリバリー 慶應技術大学 2017年
 https://www.research.keio.ac.jp/ip/files/2018_Doi.pdf

<5>細胞内で抗体医薬を作る
(3)筋萎縮性側索硬化症の異常凝集体を除去する治療抗体の開発に成功―ALSの根治治療への道を開く―
 https://www.amed.go.jp/news/release_20180531.html
(4)細胞内で働く安定細胞内抗体「STAND」の開発に成功 東邦大学 御子柴克彦 2020年
 https://www.toho-u.ac.jp/press/2019_index/20200117-1054.html

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