アルツハイマー型認知症の薬「レカネマブ」

雑感、その他

アルツハイマー型認知症の薬として、エーザイとアメリカのバイオジェンの「レカネマブ」が、2023年1月にFDAによって迅速承認されたこと(資料(1))は記憶に新しいと思います。そして2023年6月10日、完全承認に向けて動き出しました(参考資料(2))。「レカネマブ」は、早期認知症での、アミロイドβプロトフィブリルを標的とした抗体医薬で、静脈に点滴するお薬です。プロトフィブリルは、アミロイドβやタウなどが凝集して不溶性となる前の、まだ水溶性の状態のもの(高分子オリゴマー)です。

ところで、薬の名前で、「〇〇○ニブ」とか、「〇〇○マブ」というのがあります。どちらも「分子標的薬」といわれている薬です。

分子標的薬のうち、ポスチニブなどの「〇〇○ニブ」は、小分子(低分子)薬。レカネマブなどの「〇〇○マブ」は、抗体薬です(資料(3))。抗体は新型コロナでも有名になりましたが、体内に入ってきた(存在する)特定の異物に取り憑き、異物の毒性を抑制したり、免疫細胞を呼び寄せる働きを持つ、免疫グロブリンという名前のタンパク質です(資料(4))。タンパク質は高分子です。高分子というのは、非常に多くの原子から構成されている分子です。

さて、「レカネマブ」という、アルツハイマー型認知症の薬ですが、私は2つの疑問を抱きました。
 (1)抗体は高分子なので、脳内に入らないのでは?
 (2)脳内でこの抗体はどういう働きをしているの?

まず(1)ですが、脳の血管は、血管壁に隙間がなく、脳内毛細血管内から血管壁を通して脳組織には、酸素、ブドウ糖、アミノ酸、アルコールなどの低分子や、その他、脳に必要な成分しか通さない仕組み(これを血液脳関門(Blood Brain Barrier:BBB))と言います)になっています。抗体は高分子なので、通さないはずだ、というのが私の知識でした。

そして(2)ですが、血管内を流れている免疫細胞も、この血液脳関門に阻まれて、脳内の組織には入っていけません。しかし脳組織には、ミクログリア細胞という免疫細胞があるのですが、果たして、脳内で、この抗体は、ミクログリア細胞を呼び寄せることができるのでしょうか?

(1)の疑問に対しては、投与した抗体の分量のうち、0.1%から0.5%程度は、脳内に入るそうです。逆にいうと、できるだけ脳内に入りやすい抗体を選んでいるそうです。ということは、脳以外の部位の病気への治療用の抗体医薬の投与よりも、数十倍の分量の抗体を投与する必要があるということになります。副作用が心配され、また薬価も数十倍になることが予想されます。

(2)の疑問に対しては、いろいろ調べたのですが、ミクログリア細胞を呼び寄せるという働きについて記された資料は見つかりませんでした。レカネマブは、アミロイドβプロトフィブリルの周りに大量に取り憑き、それ以上の繊維化を抑制。かつ、レカネマブは、アミロイドβプロトフィブリルが細胞膜に影響する毒性を阻止しているようです(資料(5)(6)(7))。レカネマブによる、アミロイドβプロトフィブリルの分解や脳外への排出に関しては不明です。

いずれにしても、認知症薬については今まで進展がなく、アミロイドβ仮説が揺らぎ始めた最中での快挙。久々のいいニュースですね。

<参考資料>
(1)アルツハイマー病薬レカネマブ、米国で迅速承認…
 https://answers.ten-navi.com/pharmanews/24652/
(2)エーザイのアルツハイマー新薬「レカネマブ」 米FDAが完全承認を勧告  https://news.yahoo.co.jp/articles/cc5e7e25000fc602f199c76511ab9db8444c818e
(3)マブとニブ
 https://ichiba-md.com/mab-nib/
(4)抗体とは
 https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/bio/antibody/antibodyp05.html
(5)「アルツハイマー病免疫療法において、脳内に進入した抗体が . . . 隔離する . . .」
 https://www.jst.go.jp/crest/sss/topics/image/iwatsubo090918.pdf
(6)アルツハイマー病の新規治療薬レカネマブの作用機序の一端を解明 2023年5月4日
 https://nanolsi.kanazawa-u.ac.jp/highlights/26535/
(7)アルツハイマー病の新規治療薬 レカネマブ の 作用機序の一端を解明 2023年5月9日
 https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2023/05/230509_3.pdf

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