天然変性タンパク質

相分離生物学

私が先日、青天の霹靂を経験したのは、「天然変性タンパク質」というものでした。今回は、それをテーマにしたいと思います。今回は、私の、あまりにも不勉強であったために生じたことですので、わかりやすく説明するにはほど遠く、そのため、メモ書きの羅列となってしまうことを、お許しください(大汗)。

天然変性タンパク質(intrinsically disordered protein;IDP):天然変性領域(IDR)を持つタンパク質
天然変性領域(ntrinsically disordered region;IDR):タンパク質の一部で、立体構造が一定しておらず、立体構造が不規則に変化している領域(ブラウン運動によって揺れ動いている)
  参照:Wikipediaで、天然変性領域が揺れ動いている絵がとてもわかりやすいです。
  https://ja.wikipedia.org/wiki/天然変性タンパク質

タンパク質は、その全体が天然変性領域である場合から、立体構造と天然変性領域の両方から成る場合や、天然変性領域が全くない場合まで、いろいろなタンパク質がある。

立体構造タンパク(天然変性領域がないタンパク質) :約60%
天然変性タンパク質(天然変性領域を持つタンパク質):約40%

天然変性タンパク質は、真核生物(動植物)に多い。原核生物(細菌など)には少ない。ミトコンドリア内には少ない。核内に多い。

転写因子やリボソームが、代表的な天然変性タンパク質。RNAに結合するタンパク質は、天然変性タンパク質であることが多い。

天然変性領域(IDR)は、少ない種類のアミノ酸からなる単調な配列になっていることが多い。そのため、天然変性領域は、低複雑性ドメイン(low complex domain:LCD)と言われることもある。

天然変性領域(IDR)には、リン酸化やユビキチン化などの翻訳後修飾を受ける残基部位や,核移行シグナル(核内局在化シグナルともいう)、核外輸送シグナルなどのシグナル配列などの機能部位が多く存在する。天然変性タンパク質は液-液相分離しやすい性質を持つが、リン酸化やユビキチン化すると、液-液相分離が促進される。

天然変性タンパク質は、RNAと結合してRNP複合体(RiboNucleoProtein Complex )を形成したり、RNP複合体が集まって、液-液相分離による液滴(ドロップレット)を形成しやすい性質を持つ。RNAと結合するタンパク質のことを、RBP(RNA-binding protein)という。

液-液相分離すると、その液滴の中でRNAやタンパク質の密度が高くなり、さまざまな代謝(転写の促進、タンパク質の結合、mRNAの分解、ストレス応答、など))が起きる。液滴は、発生したり消滅したり、あるいは液滴同士がくっついたり分離したり、そういった変化をする性質がある。

天然変性領域(IDR)の部分に多い「シグナル配列」とは、タンパク質を輸送する宛先(細胞質、核、ミトコンドリア、など)を表すアミノ酸配列。

転写因子タンパク質のアミノ酸配列の一部には、核移行シグナル配列があり、そのため、転写因子タンパク質が細胞質で発現すると、転写因子タンパク質は、核内輸送受容体タンパク質に結合して、核膜孔複合体と相互作用しながら核膜孔を通って、核内へと輸送されていく。

液-液相分離に関する制御が破綻し、液-液相分離が促進し、液滴内でのタンパク質の密度が高くなりすぎると、タンパク質同士が強く絡み合って凝集、繊維化し、タンパク質分解されにくくなる。それが、ALS、パーキンソン病、アルツハイマーといった神経変性疾患の原因だと考えられている。液-液相分離の制御機能は何によってもたらされているのか(相分離制御因子)は、いまだに不明な点が多いが、「相分離シャペロン(相分離するしないを制御する)」がその一部を担っているのではないか、という説が出ている。

<参考文献>
(1)生物物理 「天然変性タンパク質とは何か?」
 https://www.biophys.jp/dl/journal/49-1.pdf
(2)ゲノムの暗黒物質ノンコーディングRNAの機能探索
 http://seisan.server-shared.com/724/724-56.pdf
(3)タンパク質リン酸化による液-液相分離制御のしくみを解明―細胞内非膜型オルガネラの構築原理の解明へ―
 https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20220527.html
(4)タンパク質の核内輸送機構の構造的基盤
 https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-06-04.pdf
(5)生物学的相分離の制御 吉澤 拓也、森 英一朗 2020年
 https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9805/9805_tokushu_1.pdf
(6)相分離シャペロンとなるインポーチンβファミリー 吉澤 拓也 2020年4月25日
 https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2020.920259/data/index.html
(7)AMED 神経変性疾患における相分離制御破綻の機序解明―ALSなどの神経難病の病態解明に光― 2021年9月6日
 https://www.amed.go.jp/news/release_20210907.html
(8)液-液相分離と神経変性疾患の動的構造基盤 齋尾智英 2022年4月24日
 https://www.astellas-foundation.or.jp/pdf/research/2019/2019_20_saio.pdf
(9)RNA 結合タンパク質の液-液相分離制御に関する研究 吉澤 拓也 2022年
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj/64/2/64_140/_pdf

コメント

タイトルとURLをコピーしました