細胞内抗体医薬

雑感、その他

先日、アルツハイマー病に関する、現在進行中の抗体医薬は、あくまで、神経細胞膜の外に蓄積するアミロイドβプロトフィブリルや、細胞外タウが標的であって、神経細胞内にある異常タンパクを標的にはしていない、ということを知りました。ですので、今回のタイトルである、細胞内抗体医薬は、次の時代の、新しい治療法に関する研究だということになります。では、どのような病気に、細胞内抗体医薬が有効かというと、ALSなどの神経変性疾患や、がんなどが考えられます。

細胞内抗体医薬に関するアプローチには、現在、以下のものがあります。

  1. 細胞膜透過ペプチド(CPP)を使って、抗体を、細胞内に届ける
  2. 高分子ミセルを使って、抗体医薬を細胞内に届ける
  3. CPPと高分子ミセルの併用
  4. CPPによる膜透過法の改良
  5. 細胞内で抗体医薬を作る

順番にご説明します。
 1.は、細胞膜透過ペプチド(CPP)です。1988年からの歴史があり、結構古くから知られています。抗体医薬にCPPを結合させておくと、細胞膜表面にあるプロテオグリカン(糖タンパクで、細胞外マトリックスを形成する)との相互作用により、エンドサイトーシス(マイクロピノサイトーシス)が起こりやすくなるそうです(参考資料(1)〜(4))。
 2.は、高分子ミセルです。リン脂質を用いた脂質ナノ粒子(LNP)やリポソームは、一般的に炎症反応を起こしやすく、静脈投与すると、肝臓に集まりやすいそうです。その点、高分子ミセルの方が、肝臓以外の臓器へのDDSには向いているそうです。水に溶けやすい(親水性)部分 と溶けにくい(疎水性/親油性)部分とを併せ持つ高分子(ブロック共重合体)を水に溶かすと,数十から数百の分子が自律的に 集まり会合体を作るそうです。その会合体をミセルと言うそうです(参考資料(5)〜(7))。

 図は、参考資料(7)から引用しました。ミセルの外側は親水性、内部は疎水性。内核部に、医薬品を入れておく。高分子ミセルが細胞内に侵入すると、環境(PHなど)の変化によってミセルが壊れ、医薬品が細胞内で解き放たれる。

 3.は、CPPと高分子ミセルを使った応用例です。高分子ミセルに、CPPの一種であるTATを結合させ、核酸医薬を、鼻腔にある嗅覚神経細胞経由で脳内に運ぶ方法が研究されています。鼻腔に投与する場合、脳の毛細血管を経由せず、嗅覚神経細胞内部を経由して脳内に医薬品を届けることができます。血管を経由する方法をとる場合は血液脳関門(BBB)がありますので、この方法は、その障壁を避ける狙いがあります(参考資料(8)〜(9))。
 4.と5.は、また次回にご説明したいと思います。

<参考文献>

<1>細胞膜透過ペプチド(CPP)を使って、抗体を、細胞内に届ける
(1)細胞膜透過性ペプチド 2013年
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/141/4/141_220/_pdf
(2)IgG特異的修飾技術による多様な機能性抗体医薬の創出 2014年
 https://www.amed.go.jp/program/list/06/01/i-biomed/subject/2014/06/index.html
(3)細胞膜透過ペプチドの神経系への応用 2017年
 https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890021/data/index.html
(4)その壁を突き抜けろ! -細胞膜透過ペプチドの話- 2020年
 https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/0819.html

<2>高分子ミセルを使って、抗体医薬を細胞内に届ける
(5)mRNA 医薬に利用されるキャリア開発: ナノミセル型キャリアhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/35/1/35_27/_pdf
(6)ナノキャリア社の高分子ミセル DDS 技術 https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/53/9/53_912/_pdf
(7)異分野融合の先に広がるがんDDS研究の展望
 https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2019/PA03304_03

<3>CPPと高分子ミセルの併用
(8)バイオ医薬の Nose-to-Brain Delivery 戦略 2016年
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/52/11/52_1038/_pdf
(9)中枢神経系領域を標的とする薬物・核酸医薬の Nose-to-Brain デリバリーに関する研究 2020年
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/35/5/35_434/_pdf

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