遺伝子とは

雑感、その他

(1)DNAとは
(2)染色体とは
(3)遺伝情報とは
(4)遺伝子とは  <==
(5)細胞が作る「タンパク質」とは

今回は、「遺伝子とは」というテーマで、私なりの説明を試みたいと思います。

遺伝子とは、歴史的には、最初の頃、「親の特徴を担う何らかのものの単位」という意味でした。その頃、「遺伝子」は、”Element”と呼ばれていたそうです。「親の特徴」とは、「遺伝情報」のことを意味します。

その後、「遺伝情報を担う何らかのもの」とは、染色体DNAだということがわかり、その「単位」とは、染色体DNA上の各所に存在する、タンパク質をコードする部分だ、というように変化しました。しかし、その後、遺伝情報を担うのは、タンパク質をコードする部分だけではなく、リボソームRNAをコードする部分、トランスファーRNAをコードする部分、というように、範囲が広がってきている、というのが、今の「遺伝子」という言葉の現状です。

現在、染色体DNA上で、「遺伝子」だ、と言われているのは、以下の3種類です。

 (1)タンパク質をコードする遺伝子
 (2)リボソームRNAをコードする遺伝子(rRNA遺伝子、rDNA)
 (3)トランスファーRNAをコードする遺伝子(tRNA遺伝子、tDNA)

染色体DNA上で、「遺伝子」だと呼ばれる部分は、広義ではこの3種類です。しかし、タンパク質をどういうタイミングで、どの様に作るのか、作り過ぎればどの様に減らすのか、調整を行うことに関係するものとして、miRNA(マイクロRNA)も、lncRNA(ロングノーコーディングRNA)も見つかってきていますので、広義では、今後ますます「遺伝子」と呼ばれる部分が増えていくのではないでしょうか。

「遺伝子」の狭義としては、この3種類の中の「タンパク質をコードする遺伝子」を意味します。ライフサイエンスの実験等では、狭義の「遺伝子」を使うことが圧倒的に多いです。病気の原因を探ったり、病気の治療をしたりする場合に重要視されるのは「タンパク質をコードする遺伝子」です。そういった背景もあり、通常、単に「遺伝子」と言えば、「タンパク質をコードする遺伝子」のことを指します。以降、「遺伝子」は、「タンパク質をコードする遺伝子」を指すものとします。

「タンパク質をコードする」とは、特定のタンパク質を作るための塩基配列が表現されている、と言う意味です。「塩基配列」という言葉を使う場合は、「染色体DNA」という言葉よりも、その塩基配列を示した「ゲノム」という言葉を使う方が適切ですね。ゲノムの各所に、特定のタンパク質を作るための塩基配列の範囲があって、それぞれの範囲を「遺伝子」と呼んでいます。

「遺伝子」の例として、「ヒトβグロビン」というタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列をご紹介します。

引用:http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/pdf3/Chapt9.pdf#search=%27mRNAを合成%27

この遺伝子は、”ATG”から始まり、”TAA” で終わっています。

「遺伝子」について留意すべきなのは、「DNA」というのは物質名ですので、配偶子(卵子や精子)や受精卵の染色体DNAや、受精卵から体細胞に分化した細胞の染色体DNAにだけ、「遺伝子」があるわけではない、ということです。例えば、細菌の中にあるプラスミドDNAや、ウイルスのDNAや、人工のプラスミドDNA、そういったDNAにも、特定のタンパク質を作るための塩基配列が表現されている範囲があれば、それも「遺伝子」と呼ばれている、ということです。

現在の地球上のすべての生物は、1つの共通の祖先(コモノート)から進化したと言われています。驚くことに、タンパク質を作るための塩基配列が、どういうアミノ酸配列を意味しているのかは、地球上のすべての生物で共通(一部の例外がありますが)なんですね。遺伝子からタンパク質が作られる仕組みも、基本的には共通です(これを「セントラルドグマ」と言います)。ですので、マウスのDNAが、ヒトと同じタンパク質を作る、ということは、よくあることです。大腸菌は、通常はヒトのインスリンを作ることはありませんが、大腸菌に、インスリン遺伝子を導入し、大腸菌に、インスリンを作らせる、といったことも可能で、インスリンの製造のために、実際に利用されています。種(しゅ)の壁を超えて、「遺伝子」の働きに共通性があるって、びっくりですよね。

このように「遺伝子」は、「親の遺伝情報を子や子孫に伝える」、という役割から独立して、特定のタンパク質を作るための塩基配列だということにのみ着目して「遺伝子」という言葉が使われていることが非常に多いという点に注目すべきです。iPS細胞を作る場合、「体細胞に遺伝子を導入する」と言われたりしますが、この場合の「遺伝子」は、細胞の中で特定のタンパク質を作ることを目的としていて、決して、親の遺伝情報を、子や孫に伝えることを目的とはしていません。「遺伝子」という言葉のニュアンスだけで考えてしまうと、誤解を生みますので、気をつけましょう。

さて、特定のタンパク質をコードする遺伝子は、作られるタンパク質の種類ごとに異なるの遺伝子として扱われています。ゲノム上にある、遺伝子は、ヒトの場合、約22,000個あると言われています。そのすべての個々の遺伝子には、名前がつけられています。遺伝子の名前と、その遺伝子から作られるタンパク質の名前は、同じであることが多いようですね。

(例)ピカチュリン(英語:Pikachurin)は、視覚の神経伝達に関与する細胞外マトリックスタンパク質の名前、もしくはそれをコードする遺伝子の名前。「ピカチュー」から引用され命名された。

遺伝子の塩基配列の情報が読み取られてタンパク質が作られることを、「遺伝子の発現」と言います。

(例)ピカチュリン遺伝子が発現すると、ピカチュリンが作られます。

他に、どういう「遺伝子」があるのか、は、以下の”GENOME MAP”の「参照:」のリンク先が、まとまりがあって、わかりやすいと思います。

参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/week/genome/a3.pdf

この”GENOME MAP”は、Amazonで販売されています。
https://www.amazon.co.jp/科学ポスター「一家に1枚」シリーズ-ヒトゲノムマップ-A2判/dp/B00AYAVQ2W/ref=sr_1_2

今回の私の説明は以上ですが、間違っていたら、ごめんなさいね。

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