“CRISPR/Cas3″の登場による安全性の向上について

雑感、その他

今日は、少し古い話で恐縮ですが、、、

2012年にCRISPR/Cas9が登場し、その後、安全面で危惧され、マスコミはかなり騒ぎ立てました。それは、狙った箇所以外の箇所にある遺伝子も傷つけてしまう危険があることでした。
ところが、その後、2019年に、より安全性が高いCRISPR/Cas3が登場したのに、マスコミは知らん顔。これは一体どういうことなのでしょうか。

CRISPR/Cas9は、DNAの塩基配列の中で、ガイドRNAの20塩基配列に一致する箇所を探しあて、DNA切断酵素Cas9がその場所でDNAを切断し、続けてさらに一致する箇所を探しに行く、という働きをします。核内にあるDNA修復酵素が、DNAが切断された箇所を修復しますが、正しく修復されれば、また、そのCas9が切断します。それを繰り返すうちに、DNA修復酵素が、誤った(欠損や置換)修復をしてしまえば、そこでCRISPR/Cas9の働きは終了します。つまり、誤って修復された、その遺伝子は、働かなくなってしまいます(遺伝子のノックアウト)。

この、CRISPR/Cas9の働きの安全面での課題は、染色体DNA全体のうち、ガイドRNAの20塩基配列と非常によく似ている箇所でも働いてしまう、と言うことです。もし正しい箇所以外でも、CRISPR/Cas9が働くと、狙った遺伝子以外の遺伝子も、同様に、ノックアウトされてしまいます(オフターゲット変異)。正しい箇所以外の非常によく似ている箇所は、ゲノムの中で1箇所あるかないか、と言う確率だそうです(できるだけオフターゲットが起こりにくいようにガイドRNAを設計しますが、それでも、、、)。

2019年12月6日に、ネイチャー誌に、CRISPR/Cas3に関する論文が掲載されました。
ネイチャー論文:https://www.nature.com/articles/s41467-019-13226-x

CRISPR/Cas3の場合、ガイドRNAの塩基配列の長さは、27塩基だそうです。
(2019年12月6日 CiRA研究成果「新しいゲノム編集ツールCRISPR-Cas3の開発に成功 ~ヒトiPS細胞においてDMD遺伝子の修復に成功~」)

1塩基ごとに4通り(A/T/G/C)の塩基が考えられますので、ガイドRNAの塩基数がCRISPR/Cas9よりも7つ増えたことにより、4^7=16384。つまり、オフターゲット変異が発生する危険性は、Cas9の場合の危険性よりも、理論上、16384分の1に減る計算(計算が間違っていたらごめんなさい)になります。また、Cas9が、DNAの1つの塩基対の箇所を切断するのに対して、Cas3は、該当する範囲をザクザクに切断するそうです(下記リンクの動画を参照)。つまり、その遺伝子を完全にノックアウトできるわけです。この安全性や確実性の向上により、医療への応用という扉が開かれました。
参考:https://www.youtube.com/watch?v=WV5kDnanq9U

このCRISPR/Cas3は、大阪大学が出願人となって国際特許を出願しています(国際公開番号:WO2018/225858 A1)。大阪大学発のベンチャー企業「株式会社C4U」(CRISPR for Youという意味)は、この特許をコア技術として医療に応用することにより、競争優位性の高い事業展開を行っています。このC4Uと契約して、CRISPR/Cas3を使って研究する国内企業が続出している状況です。

私は、一般市民として思うのですが、マスコミ各社は、危険性ばかりを喧伝するのでなく、このような「安全性が高まった」というニュースも、報道して欲しいものです。

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