miRNA(マイクロRNA)について

雑感、その他

今回は、miRNA(マイクロRNA)をテーマにしたいと思います。
高校の教科書に、「RNA干渉」について書かれてあるのですが、そこでは、『翻訳されないRNAが働いて、RNA干渉が起こる』と、書かれています。そこでは、どういうわけか、miRNA(マイクロRNA)という言葉が使われていません。
どうして、高校の教科書にmiRNA(マイクロRNA)という名前が出てこないのか、疑問に思って文部科学省のライフサイエンスの広場の「用語の解説」を見ました。そこでは、RNAのことを『RNAには、mRNA、tRNA、rRNAという3種類がある』と書かれていて(参考文献(1))、miRNAは登場しません。これは違和感MAXです。

私が持っている高校の「生物」の教科書は、今年の4月に買った教科書です。決して古い教科書ではないと思うのですが、miRNAという言葉を使うことを、何やら、意識的に避けているような感じがします。文部科学省の用語集に『RNAには、mRNA、tRNA、rRNAという3種類がある』と書いてしまい、用語集と教科書を足並み揃えて更新することが困難で、教科書にmiRNAを登場させることができなくなってしまったのかもしれません。こういった教科書の改定の遅れが、日本の科学の進歩を妨げてしまっているのではないでしょうか。

教科書がこんな調子ですので、私はネットを検索して、miRNAとRNA干渉について検索して、勉強しました。以下は、私の勉強の成果です(間違っている箇所があれば、ごめんなさい)。
 (1)miRNAとは、18~25塩基程度の一本鎖RNAである。
 (2)miRNAは、細胞質内では、タンパク質複合体と結合して働く。
 (3)タンパク質複合体と結合しているmiRNAは、標的となるmRNAを見つけるためのガイド鎖として機能する。
 (4)miRNAと一致する相補配列(完全一致)を持つmRNAを見つけると、miRNAがそのmRNAにくっつき、タンパク質複合体が、そのmRNAを切断する。
 (5)miRNAと似た相補配列(一部が一致)を持つmRNAを見つけると、miRNAがそのmRNAにくっつき、タンパク質複合体が、そのmRNAからタンパク質への翻訳を阻害する。

この図は、参考文献(2)からの引用です。とてもわかりやすい図ですね。
mRNAを切断するタンパク質は、タンパク質複合体を形成しているタンパク質のうちの1つで、アルゴノート(Argonaute)(略してAgo)と呼ばれています。miRNAが結合しているタンパク質複合体は、RISC複合体(RNA誘導サイレンシング複合体(RNA-induced silencing complex、略称: RISC)と呼ばれています。

RISC複合体のガイドとして使われるmiRNAは、ヒトでは、約2,600種類以上、見つかっているそうです(参考文献(3))。ヒト以外も含めると、2014年時点で、223種類の生物において35,828種類のmiRNAが発見されているそうです(参考文献(4))。

ここで、私は、miRNAの働きはCRISPR-Cas9と似ていることに気づきました。CRISPR-Cas9はDNAを切断しますが、このRISC複合体は、mRNAを切るのですね。本来、mRNAからタンパク質が作られるのですが、そのmRNAが切断されたり翻訳が阻害されたりすれば、タンパク質の産生量が減ることになります。このことを、RNA干渉(RNA Interfeling、RNAi)といいます。つまり、miRNAは、タンパク質の産生量の調整(産生量を減らす方向)を行なっている、というわけです。miRNAは常に細胞内に存在していて、そのmiRNAの増減によって、標的のmRNAからのタンパク質の産生量が減増しているのです。この調整が狂うと病気になる可能性があります。

また、miRNAのこの働きは、発生や細胞の分化、がんや細胞の増殖やアポトーシスなど様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしていることが知られているそうです(参考文献(5))。また、がんの観点では、がん抑制マイクロRNAや、がん促進マイクロRNAがあって、そのバランスが崩れると、がんになるそうです(参考文献(6))。細胞や個体の老化にも、miRNAが関係しているそうです(参考文献(7))。

さらに、miRNAは細胞の中に留まらず、エクソソームに包まれて血管中にしみ出し、血液中を流れて他の臓器にたどり着き、他の臓器の細胞の中にmiRNAが取り込まれるそうです。つまり、miRNAは、細胞間、臓器間のメッセージ物質の1つだということです。がんの転移も、この仕組みが利用されてしまっているようです。

がん細胞のmiRNAの産生量には特徴があり、血液検査や尿検査でmiRNAの量を調べることができるそうです。現在、約20の大学病院で、検査できるそうです(参考文献(8)(9))。

「日本マイクロRNA学会」という学会があって、面白いYoutube動画を作られています(参考文献(10))。その中で、衝撃的なことが説明されていました。
『マイクロRNAは、個体間の行き来すら可能です。食事や接触、感染や遺伝などによってマイクロRNAが取り込まれています』という説明です。確か、牛乳や果実などに含まれるエクソソーム(EVs)の中にはmiRNAがあって、エクソソームは消化液では消化されずに、小腸や大腸まで届くそうです。ですので、腸でそれらのエクソソームに含まれているmiRNAがヒトの細胞に取り込まれたり、腸内細菌に取り込まれたりもするようです。(参考文献(11)(12)(13))。

このような、miRNAの重要性に関する認識の高まりは、ライフサイエンス全体に及んでいるようです。miRNAは、ライフサイエンスにとって、とても基本的で、影響範囲が広いものです。ぜひ、高校の生物の教科書には「翻訳されないRNA」といった曖昧な表現ではなく、miRNA(マイクロRNA)という名前を登場させていただきたく思うのであります。

<参考文献>

(1)文部科学省 ライフサイエンスの広場 用語の解説
 https://www.lifescience.mext.go.jp/others/word.html
(2)マイクロRNA(miRNA)を簡単に解説!
 https://sato-ayumi.com/2019/10/19/マイクロrna(mirna)を簡単に解説!/
(3)日薬理誌「創薬研究の新潮流」 2019年
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/154/1/154_28/_pdf
(4)Wikiぺディア「miRNA」
 https://ja.wikipedia.org/wiki/MiRNA
(5)マイクロRNA
 http://www.telomere.jp/mirna
(6)老化とMicroRN
 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/perspective_geriatrics_50_1_9.pdf
(7)Youtube 日本癌学会 一般向けの講演1「体液中を泳ぐ小さなRNAが変える未来の次世代診断・治療」 2015年
 https://www.youtube.com/watch?v=RHV4BizFeGg
(8)マイクロRNAで調べる次世代がんリスク検査
 https://misignal.jp
(9)血中マイクロRNAによって13種のがんを高精度に区別できることを実証
 https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2022/1207/index.html
(10)Youtube 「マイクロRNA入門」
 https://www.youtube.com/watch?v=omENhatLlMU
(11)果実ナノ粒子含有マイクロRNAを介した食品由来高分子による消化管機能調節 20
 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K21474/
(12)miRNA を介した新しい食品機能の発現機構
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/54/12/54_909/_pdf
(13)natureダイジェスト 「食べ物から来たマイクロRNA」
 https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v9/n1/食べ物から来たマイクロRNA/58232

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